「完全無肥料」への日本の理解~ほぼ絶望的
自然農法のなかでも、とくに「完全無肥料」にこだわってきたHalu農法は、10年以上の歳月を経て、本格的な実用化の段階にあります。ほとんどすべての野菜が栽培可能であることは、数年前から確認できていましたが、量産するとなると、別の技術になります。
株間、条間はどうか、水やりのタイミングや量はどうか。そしてここ数年厳しくなってきている気候変動にどう対応するのか。
量産実験については、かなり多くの野菜について検証は済んでいます。大根、小松菜、人参、スイカ、カボチャ、キュウリ、メロン、トウモロコシ、パクチー、ニンニクなど。そして2021年の大きな研究課題は、「ハウス栽培」です。2月に実験用ハウスを新設し、さっそく小松菜を栽培したところ、約1~1.5か月で良質な小松菜が収穫できました。続いて間髪入れずカブを栽培したところ、これも順調に育ちました。
とくにカブの食味は大変評判良く、たとえば自然食品店を営む人におすそ分けしたところ、他の自然派のカブと比べて1、2を争う味だと評価を得たと聞きます。そして5月からスタートしたのはトマト栽培です。
トマトは、「ゲノム編集トマト」が世間に出回り始めているため、どうしても安全確保のために自家採種して栽培を続けたい品種であり、しかしながら露地ではあまりうまく育てられなかった野菜です。それは、栽培途中の手間がかかるため、放置状態になることが多かったためです。一般に広く食されている野菜でありながら、ほとんどは液体肥料と農薬に頼る野菜であり、さらにゲノム編集種が混在することになっているため、トマトのハウス栽培を2021年の最大のテーマに取り上げました。
栽培経過は、いまのところ大変順調です。でき始めた実を食べてみたところ、そのままケチャップに加工できるのではないかと思うほど甘く、濃厚な味がします。そしてもちろん病害虫はありません。このままこの品質で栽培可能であるなら、これはトマト栽培の革命と言えるでしょう。
これまで、完全無肥料栽培については、多くの農業関係者にアピールしてきました。現役の生産者や研究者、役人など。しかし、結論から書くと、だれひとりとして、Halu農法を実践しようという生産者は現れていません。2016年に東京で「第1回オーガニックライフスタイルexpo」というイベントが開催されて、そこに大金をはたいて出店したものの、ブースに来た農水省の技官は薄ら笑いを浮かべて「頑張ってください」と立ち去っていきました。
なんとか日本の食の生産現場を健全なものにしたい、という強い希望を持っていましたが、やはり「完全無肥料」という考え方は、自然農法の分野でも異端的な考え方らしく、いまだに関心を持つ人は現れません。そして、大きく舵を切ることにしました。
農業関係者ではなく、消費者に直接アピールし、「自分で素晴らしい野菜をそだてよう」という事業を企画しました。完全無肥料栽培でいろいろな野菜を育てることができると実感する人が増え、これまで消費者意識しか持てなかった人々が、生産者の視点を持てるようになってきました。おそらく、ここから日本の農業は本当の改革が始まるのだと、最近は実感しています。
さて、トマトのハウス栽培は、このままいけば大量生産ももちろん可能ですが、天候に左右されない野菜の生産に大きな一歩となるでしょう。小規模のハウスなら、個人でも投資することができるし、自給自足も難しくないと思います。