未来の農業技術という旗印
いまの時代、食に関心のある人にとって、「無農薬」は当たり前です。ですから、農薬を使わない「有機野菜」とか「有機農法」あるいは「オーガニック」という言葉を知っているでしょうし、実際に購入して食べているかもしれません。あるいは、家庭菜園で自ら野菜を育てているという人もいるでしょう。
ところが、いまは農薬どころか、肥料をまったく使わない農業技術が確立されつつあります。「無農薬」ではなく「無肥料」の農業ということですが、この意味が一般にはほとんど伝わっていません。(無肥料であることを強調すると、「じゃあ、農薬は使うんですか?」とすぐに聞いてくる人がたくさんいます。その答えは3行前に書いてあります)
肥料を使わない技術は「自然農法」と呼ばれています。まだ歴史は100年ほどと短いのですが、無から有をつくるという、まるで錬金術のような技術にあこがれて、多くの人がチャレンジしてきました。私もその一人です。
ところが、どうも自然農法は有機農法の延長と思われているようです。「肥料は使わないけれど、自然に任せていれば土が肥えてきて、野菜ができるようになる」と解釈されているようです。それは、消費者ではなく、自然農法にチャレンジしている実践者たちのほうです。
本当に自然に任せていれば土が肥えてきて、野菜ができるようになるなら、わざわざ肥料を使う意味はありません。そして、土が肥えるのを待っているだけなら、時間が短縮できてたくさん野菜が収穫できる有機農法のほうが良いのではないか? そんな疑問が出てきます。
これまで自然農法を実践する多くの人たちは、この疑問に答えることができませんでした。なので、自ら細々と実践して作物をつくり、限られた消費者にだけ販売していくことしかできず、新しく自然農法を実践しようという人がなかなか増えませんでした。
しかし、最近は無肥料で野菜が育つ仕組みが科学的にわかってきました。つまり、理論ができて、だれにでも再現できる時代になってきたのです。野菜ができるのは、土が肥えるからではなく、自然界には、植物と微生物が共生して、空気と水があれば自動的にどちらも繁殖していく仕組みがあるということがわかってきたのです。つまり、錬金術は確かにあったのです。
自然農法の野菜は、生命力の指標である「抗酸化力」が高く、ミネラルも豊富であることが栄養分析でわかっています。
私の経営する農園にも自然農法を学びにたくさんの人が集まるようになってきました。野菜作りは初めてという人でも、始めたその年から大玉スイカやトマトなど、思い思いに野菜を作っています。
これが、未来の農業の基盤になっていく。いよいよ素晴らしい時代になったと思います。